これまでに13万食以上を販売し、今や新横浜ラーメン博物館の人気コーナーの一つ「ラー博スゴメンラボ」。
開発期間は6ヶ月、担当者の「こんなことをやってみたい」の一言から、Webアプリケーションの開発、混雑緩和、運営の効率、障害対策など全ての分野の課題を解決したkazeniwa クリエイティブチームの「ラー博スゴメンラボ」開発事例をご紹介します。
オリジナルのカップ麺を製作できる「ラー博スゴメンラボ」
新横浜ラーメン博物館(以下、ラー博)が、2024年3月に迎える30周年プロジェクトの第2弾として、「ラー博スゴメンラボ(以下、スゴメンラボ)」を2023年4月25日(火)にオープンしました。
スゴメンラボでは、ヤマダイ株式会社と株式会社アトラステクノサービスの協力を得て、エンタテインメントと技術を駆使し、麺・具材・スープ・容器・フタを自由に組み合わせることができる、オリジナルのカップラーメンを提供しています。
ユニークな麺(全5種)、スープ(全10種)、具材(通常トッピングのほかスペシャル具材など約全20種)、容器、フタを自由に組み合わせ、お客様自身が製作者となりオリジナルカップラーメンを作れます。
また、フタには自身の携帯に保存された写真をパッケージに取り入れることも可能です。
かつてない新発想のオリジナルカップラーメンをその場で作り、持ち帰ることができる、本格的だけど楽しいオリジナルカップラーメンの製作体験ができます。
※麺、スープ、具材は時期によって変わります
たった1通のメールから始まった、30周年を彩る新たな挑戦
「こんなことやりたいんだけど……」。
担当者から、短い文面と1枚のイメージ写真が貼られたメールが弊社アートディレクター白井に届きました。
10年以上お取引している白井にとっては、いつもの普段の何気ないメールです。
当時、ラー博は翌年に30周年を迎え、すでに1年前から白井は30周年プロジェクトのWebサイト運用を手掛けていました。
そのメールには、「麺、スープ、具材などを数種類の中から一つ選び、スマホにある写真でフタの絵柄を作れるオリジナルカップラーメンを企画する」といった文面と、簡単なイラストのイメージしかありません。
29周年目となる来年のゴールデンウイークまでには完成させたいので、すぐに打ち合わせに来て欲しいと連絡があったのは夏直前の7月でした。
逆算で考えると、開発期間は6ヶ月しかない。
ヒアリングして戻ってから仕様検討では間に合わないため、数日後の打ち合わせのために、すぐに仮説で提案書を作成しました。
ラー博は、相鉄・東急新横浜線の開業もあり、コロナ前の200%の来館者が訪れる大反響で、週末はどのラーメン店舗も60分を超える行列。
ゴールデンウイーク、夏休みでは入場規制が入るほどの来館者数があります。
kazeniwaが提案する上で常に心がけていることは、要望通りの成果物を納品するだけでなく、クライアントの売上に貢献すること。
kazeniwaでしかできない提案をすることが、kazeniwa Creative Teamの強みです。
特に、今回のようなヒアリングなしで提案書を作るには、クライアントと来館者というエンドユーザーのことを十分に理解していることが必要です。
打ち合わせの訪問の前に、提案書のコンセプトとして打ち出したのは大きく3つ。
- スムーズな購入体験を実現するための仕組みづくり
- 作業効率の高い管理画面とシステム設計
- 汎用性、拡張性のあるシステムで新規のコラボも即座に対応
これをどう実現するかが重要でした。
【コンセプト1】スムーズな購入体験を実現するための仕組みづくり
お客様に快適な購入体験を提供するため、スゴメンラボではご注文から商品受け取りまでの全プロセスを熟慮し、シンプルでスムーズな仕組みを構築しました。
最終的に、ご注文は次のような流れで運用しております。
オリジナルカップラーメンの注文から提供までの流れ
- ご注文前に、新横浜ラー博物館の専用Wi-Fi(無料)に接続
- スマートフォンや携帯電話などお手持ちの端末で店内にある専用QRコードを読み込み、注文ページへアクセス
- 注文ページから、お好きな麺・スープ・具材・ふた・容器を選択
- 注文後に表示されるQRコードを受付で提示し、代金をお支払い
- お支払い後、カップラーメンを製作
- 完成後、SMSメッセージで通知
- 受付にてカップラーメンをお渡しして完了
注文データを一括管理するQRコードの導入
スタッフとお客様が最後に接する場面は「お会計」です。
このお会計をスムーズに行うためには、注文データを手入力せず、一度に複数の情報を処理できるQRコードが最適と判断しました。
お客様に最終的に提示いただくのは、このQRコードとなります。
QRコードを導入することで、スタッフがレジでご注文内容を入力する必要がないため、スムーズな会計処理を行うことが可能です。
なお、QRコードの導入により、お会計時の混雑緩和のほか、支払い状況と在庫状況の適切な把握ができるようになることから、運用の効率化につながるメリットもあります。
スムーズなアクセスを支える通信環境の強化
お客様がストレスなく購入をするためには、スゴメンラボにアクセスし、簡単に注文を行えることが必要です。
そのためには、使いやすいUI/UX設計に加え、安定した通信環境が欠かせません。
ラー博は、1FからB2Fまで広がる施設であり、館内のWi-Fi強化を提案しました。
また、Wi-Fiとは別に何らかのトラブルで通信の遮断も考慮する必要があります。
その対策にはWebアプリケーション(以下、Webアプリ)が適しており、実装についてはWebアプリでの提案を決めました。
通信が断片的に遮断されても、Webアプリであれば通信環境の回復後には注文データを再送信できるので、お客様は快適に注文を完了させることができます。
商品渡しミスをゼロに! ランダム番号とSMS通知で確実な呼び出しを実現
昨今では、飲食店で座席予約や商品受け取り時にお呼び出し番号が使われるのが一般的です。
基本的に連番が使用され、「そろそろ呼ばれる」「もう呼ばれた」と予測できる点で、連番には高い利便性があります。
しかし、その一方で、混雑時に複数のスタッフが対応する場合、連番の番号を採用した場合に、似た番号などで間違うリスクがあるのも事実です。
例えば、「003」と「008」のように似た番号が続いた場合などで、間違えて商品を渡してしまえば、お客様に不快な体験を与えるだけでなく、クレームや業務の混乱につながる可能性があります。
このようなことから、連番ではなくランダムな番号を採用することで、似た番号での間違いを防ぎ、スタッフ間のオペレーションがより正確になります。
さらに、この仕組みを補完する形で、SMSメッセージを活用した通知を導入しました。
お客様には商品が完成したタイミングで、個別の呼び出し番号が記載されたSMSが送信されますので、館内外のどこにいても確実にお呼び出しを受け取ることができ、混雑状況を気にせず商品を受け取ることが可能です。
この仕組みは、お客様にとっての利便性向上と、スタッフの業務効率化の両立を実現しています。
【コンセプト2】作業効率の高い管理画面とシステム設計
お客様だけでなく、スタッフもスムーズなオペレーションが必要です。
スムーズなオペレーションには作業効率の高い管理画面が必要不可欠です。
管理画面は、レジ、パッケージング、商品引渡し、そしてオフィスからの在庫、売上管理と複数のポジションのスタッフがアクセスします。
それぞれのスタッフがオペレーションを最適に行えるように、ワークフローで全体を管理する設計にしました。
例えば、お客様の支払いを済ませたら、レジのスタッフが入金済みにチェックを入れます。
そうすると、ご注文受付完了のSMSメッセージがお客様に送信され、パッケージングのオペレーターの画面に作業開始と指示書の通知が届きます。
パッケージングのスタッフが作業を終えてチェックをすれば、お客様にお呼び出しのSMSメッセージが送信されます。
最後に商品引渡しのスタッフが納品書をプリントすれば一連の作業は完了です。
一連のオペレーションが全てバトンリレーでつながっており、効率よく運用できる仕様です。
イレギュラーな運用として、お客様が支払い忘れなど「空注文」の場合の自動で在庫を戻す機能、支払いしたが受け取りを忘れたお客様への連絡機能などECサイト構築のノウハウを活かした提案も用意しました。
【コンセプト3】汎用性、拡張性のあるシステムで新規のコラボも即座に対応
一般的な商材と違い、様々な麺、スープ、具材で組み合わせるスゴメンラボとなると、具材の在庫管理、限定のスペシャル具材の管理と価格設定が複雑です。
このため、ただ入力できるだけでなく、今後想定される一連の業務に汎用性のある仕様を提案しました。
事実、スゴメンラボがオープンして一年後、アニメ「吸血鬼すぐ死ぬ」とコラボレーションが決定。
スゴメンラボでもオリジナルのフタ、スペシャル具材などが提供されましたが、開発期間わずか2ヶ月でコラボのカスタマイズを実現しています。
いざ、提案、開発へ
担当者は開口一番に「よくあれだけの内容でここまで提案書を作れましたね?」でした。
社内で挙がっていた懸念点のほか、先々考えられた課題についても提案が網羅されており、社内会議でも「もうこのまま作ってもらおう」と即決定したそうです。
実際に、開発をしてからの変更点はほぼなく、現場のリハーサル期間を引くと、実際の開発は3ヶ月ほどでした。
印象的な開発エピソードの一つとして、フタの用紙があります。
通常、カップラーメンのフタのような円形の印刷は、予め印刷したものを型版で切り抜く加工をします。
そこに一部だけ印字、印刷をするのが一般的です。
今回は、すでに切り抜かれた円形の白紙に、富士フイルムの特殊なプリンターで手差し印刷でフチなしプリントをします。
座標がズレてしまうとフチが出てしまいますし、お客様の写真とフレームの合成画像の生成スピード、画質、プリンターへの転送速度、それぞれが提案コンセプト「スムーズ」である必要があります。
同じフタのデザインをご家族分など複数ご注文されるお客様もいますので、プリントデータのスプールなども視野に入れないといけません。
紙詰まりなど、プリンターが停止してしまうと支払い済みのお客様へ提供ができずクレームになります。
トラブル発覚後も次から次へと注文が入るスゴメンラボを停止せず処理するインフラ設計、機材構成のご提案も実現しました。
ラー博スタッフの多大な熟練度にも助けられていますが、お客様のお支払いからお渡しまで5分を実現しています。そして、オープンから2年経過した今も、一度もサービスは停止していません。
オープン後は大反響
オープン前日のレセプションでは、国内外多くのメディアの取材が行われ、アプリでオリジナルカップラーメンを製作する様子がテレビなどで放送されました。
オープン前からスゴメンラボは大反響で、外国人観光客にもお土産として親しまれています。
フタのデザインも、ラー博オリジナルのほか、お客様の写真をはめこむフレームのデザインも複数用意され、ほとんどのお客様が2個以上注文されています。
フタだけでなく、ラーメンも大反響の理由の一つで、ラー博はZ世代を狙った変わった具材やスープが的中して話題となり、スマホの画像を使って作れるオリジナルフタは「推し活」としてオープンより多くのお客様が購入しています。
実は、アートディレクター白井はアプリにちょっとした「使いにくさ」を残しています。
その手間が潜在的な「エモさ」につながっているかもしれません。
オープンより約2年、13万食を販売するスゴメンラボは、今やラー博を代表するアミューズメントの一つです。
アプリについても、一度も不具合は発生していません。
提案は、クライアントとお客様をつなげること
kazeniwa Creative Teamは、ご依頼内容を実現するだけでなく、周辺の課題、先々考えられる懸念など見据えた提案を心がけています。
一度作ったWebサイト、システムが永くご利用いただけるように、インフラ、サーバ設計、システム開発から運用のご提案、クライアントの商品を手に取るお客様の満足度までをつなぐことがコミュニケーションデザインと考えています。
WebサイトのリニューアルからWebアプリ開発、その他、業務改善などのご相談についてはぜひお問い合わせください。