ストーリーブランディングは、商品、企業ブランドのブランディングを実施する際に「物語性」を重視した考え方です。
「人はものを感情で買う」という表現があるように、機能面で商品を差別化するのは既に難しくなっています。
ストーリーブランディングが演出するのは「ブランドの情緒的」価値です。
本記事では、ストーリーブランディングの意味と方法を詳しく解説します。
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ストーリーブランディングとは?ブランディング戦略においてストーリーテリングを用いた考え方
▼ストーリーブランディング 企業や商品がブランディングをする際に「物語(ストーリー)」を用いる考え方のこと |
これまで、日本企業のマーケティング活動において、ブランディングはあくまでも補助的な役割を担うことが一般的でした。
そのため、商品の価格や品質、宣伝広告といった個別のマーケティング戦術において、それぞれの項目を横断するような一貫した価値観で進められる事が少なくなっています。
しかし、ストーリーブランディングでは、ユーザーのリテンションを高めるため、企業(あるいは一連の商品群)に対し、核となる価値観や物語を軸にストーリーマーケティングを展開をします。
そのため、ストーリーブランディングを実施することで、継続的に市場での競合優位性を獲得でき、高い利益率を安定的に達成できるようになるのです。
ストーリーマーケティングとは?誤解しやすいストーリーブランディングとの違い
▼ストーリーマーケティング ストーリーテリングを用いる、即ち「物語(ストーリー)」を語ることでユーザーの共感を誘うマーケティング手法。 |
上記がストーリーマーケティングの意味ですが、ストーリーマーケティングとの違いがイメージできないかもしれません。
違いは、「目的」と「規模」にあります。
ストーリーマーケティングの「目的」は、ストーリーを用いることでユーザーの行動を変化させある目標=KPIを達成することです。
そのため、マーケティング全体よりも、たとえば期間限定キャンペーンLPやWEB広告、CMなど実際の施策において、クリエイティブを作成する上での軸として用いられることが多くなっています。
その一方、ストーリーブランディングの「目的」は、市場に対して価値観の信頼を獲得し、ファンを作り出し、高い付加価値=高利益率を実現することにあります。
そのため、個別の施策を超えたユーザー体験の設計や3C分析を深掘りしたうえでの自社のポジショニングといった、上流設計が大切になってくるのです。
今ストーリーブランディングが注目される理由:ストーリーを売る時代へ」のきっかけとなったマーケティングコミュニケーション
何故ストーリーブランディングが重要視されるようになってきたのでしょうか?
考えられる理由は大きくわけると2つあります。
- 日本の産業構造に変化が乏しく、コモディティ化が進んだから
- IT技術の進歩によって、発信の民主化とデータ社会が到来したから
①日本の産業構造に変化が乏しく、コモディティ化が進んだから
コモディティ化が進んだ成熟市場においては、機能や品質・価格の面で大きな差をつける事が難しくなりました。
また、それは広告手法においても同様で、数や量に任せたマーケティングが効きにくくなっています。
そのため、人間の感情に訴えかける「物語(ストーリー)」へと着目されるようになりました。
しかし、これは決して新しい話ではありません。
バブルの真っただ中にあった1990年、当時電通に在籍していた福田敏彦氏が『物語マーケティング』という書籍を執筆しているのです。
②IT技術の進歩によって、発信の民主化とデータ社会が到来したから
また、2010年代以降、SNSやインターネットの発達によって、個人の意見や体験を発信できるようになりました。
その結果、以前であれば、広告やTV番組で取り上げられるPRといった企業主体の発信の説得力が相対的に弱まったのです。
個人と企業(ブランド)がフラットな関係性へと変化する中で、これまで企業側が一方的に情報を伝えるだけだったマーケティングコミュニケーションにも大きな変化が求められるようになりました。
しかし、SNSなどで個別の施策レベルでの成功事例はあるものの、国内の企業において戦略レベルからマーケティングコミュニケーションが設計されている事例はほとんどなく、現在はまだ発達途上にあります。
ストーリーブランディングの実例とは?有名企業の事例をもとに作り方を紹介
ストーリーブランディングは実際にどのように展開されるのでしょうか。
ストーリーは感情を動かすためのもの。
ここでは実際に配信されたCMをもとに、ストーリーブランディングの要素を抽出します。
事例①:山田養蜂場物語
美しいアニメーションで、会社の歴史とその理念、そして製品全体の特徴を紹介した素晴らしいCMが「山田養蜂場物語」から見受けられます。
- 企業の歴史にとどまらず、誰にでも当てはまる「家族愛」がテーマになっている。
- ブランドの機能的特徴である「品質優位」「科学的保証のある健康」「直販によるコストメリット」を伝えている。
- 上記が結論となるようなストーリー展開がされている。
これらがストーリーブランディングができているとわかる点です。
企業からのメッセージは、どうしても自社の開発ストーリーの苦労にスポットライトが当たりがちです。
しかし、それだけでは独りよがりになり、同じ価値観を持つユーザーにしか響かなくなってしまいます。
どんな企業やブランドも、誰かの熱い思いからスタートするもの。
PR担当者は、この例のように誰もが共感できる切り口やきっかけが、その企業やブランドの中にないか、会社の歴史を掘り起こすことも必要です。
事例②:APPLE「Think Different.」
続いて紹介するのは、言わずと知れた名作である「Think Different.」です。
スティーブ・ジョブズ本人が語りかけるこのCMでは、製品やブランドの機能的特徴はおろか、自らのことすら何一つ伝えません。
しかし、このCMを見た後では、Appleが何を理想として、どこを目指しているのかがおのずと伝わってきます。
その理由は、見た人の心の中にストーリーを描くから。
仕掛けとして考えられるものは2つあります。
- 誰も否定できない、人類における歴史という非常に大きな文脈のコンテクストを追跡。
- 「Think Different.」というシンプルで素朴なメッセージ。
効果を最大化しているのが、大きいコンテクストの上でシンプルなメッセージを伝えている点です。
人類史上、偉大なことを成し遂げた人物を様々な領域において取り上げる事で、成功したい、悩みを持っている、目標を持っている全ての人にとって、明日から実践できる心構えを伝えています。
ストーリーブランディング実践編!マーケティング・広報PRにおけるストーリーの上手な伝え方とは?
ここまでCMをもとにした実例を紹介しましたが、こんなに高度なことは真似できない!と思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、仮に広告代理店の方に依頼するにしろ、プレスリリースを発信して取材を受けるにしろ、ある程度基本の骨子に関しては社内のスタッフがまとめなければなりません。
そこでここでは、ストーリーを作るためのフレームワークであるヒーローズ・ジャーニーについて紹介します。
神話学者が発見したヒーローズ・ジャーニーとは?
ヒーローズ・ジャーニーとは、神話学者であるジョセフ・キャンベルが1949年に執筆した書籍『千の顔を持つ英雄』の中に記した物語のフレームワークです。
著者は古今東西のあらゆる神話を分析し、それを12のステップに分解。
このフレームワークに当てはめる事で、ストーリーの骨子を簡単に作ることができます。
このフレームワークは実際に映画の脚本でも用いられており、有名な作品だと、スターウォーズやバック・トゥ・ザ・フューチャーなどが挙げられます。
詳しくは、下記でまとめられているためご覧ください。
ヒット食品に学ぶ、商品ストーリーの作り方!
ここまでストーリーテリングの手法を中心としたストーリーブランディングの事例をご紹介してきました。
ですが、実は昨今の商品レベルでは、メッセージを主体としたボディコピーのような形式よりも、社会のコンテクストに合わせたキャッチコピーやクリエイティブ全体のアウトプットの方が目立ちます。
今回はその中でも特に秀逸な2つの事例についてご紹介します。
衝撃的なキャッチコピーで記憶に残った森永「たべるマスク」
ストーリーブランディングと聞くと、自社の理念や商品開発のストーリーを語るイメージを思い浮かべがちですが、ブランディングはあくまでもユーザーからの信頼やどんな印象を持たれるか?を考えることが大切です。
その点この「たべるマスク」は説明不要です。
森永製菓の「たべるマスク」は、森永乳業の開発したシールド乳酸菌を配合した免疫力を高めるヨーグルト味のタブレットで、デビューは2016年の9月でした。
そして、この2016年というのがミソ。
2013年以降、インフルエンザの流行タイミングが年々早まり、2015年は(2022年からの)過去10年間で最も猛威を振るった年だったのです。
上記のグラフをご覧になっていただければわかる通り、その前年の2014年は例年よりも長い期間インフルエンザに悩まされたこともあり、日本社会における免疫力、そしてインフルエンザへの脅威が最も高まったのが2016年でした。
この商品は記録的なヒットを達成し、吉野家をはじめとした100を超える企業で森永乳業のシールド乳酸菌が導入されました。
※ある程度商品の認知獲得のフェーズは終了したということと、「マスク」というコピーが誤解を招く恐れと季節商材の印象を与える恐れがあるため、1年後の2017年には乳酸菌シールドという名称に変更されています。
消費者自らがストーリーを描けるクリエイティブ明治「The・Chocolate」
今回ご紹介するのは、商品コンセプトとそこに合わせたクリエイティブの秀逸さが光る明治「The・Chocolate」です。
この商品は同じ産地の豆のみにこだわったクラフトチョコレートと呼ばれる商品。
実は2014年にも一度リリースしているそうですが、その際はあえなく撤退に追い込まれたとのことです。
当時、高カカオチョコレートの効能自体は既にテレビや雑誌などで取り上げられており、感度の高いユーザーにとっては周知の事実。
そこで、明治がとったのは、一種類の豆であるという手の込んだ特徴をクリエイティブで表現するという手法です。
商品ストーリーを感じさせるユーザー体験の設計
キャッチコピーやボディコピーといった言葉ではなく、ビジュアルで、目にした瞬間その価値観が体験できるような設計を行いました。
産地に合わせた8種類のグラフィックとカラーをクラフト紙に箔押しし、品質感と手作り感を両立。
大手の強い販売網を活かし複数のパッケージが並んだ際、まるで手作りのチョコレートショップにきたようなユーザー体験を設計しました。
その結果、コンビニを中心とした販売網で200円を超える高価格でも、思わず手に取りたくなる特徴的なパッケージデザインを実現しました。
SNS映えを考慮したパッケージデザイン
発売当時の2015年はまだインスタグラム全盛の時代。
このキャッチーなビジュアルがインスタグラムを中心に女性の支持を取り付けたのです。
そして、追い風となったのがクラフト紙であったという点です。
パッケージにキャラクターを描き込むという投稿が流行し、高いPR効果を発揮。
主戦場をコンビニとしたことで、販路の強さもあいまって、大ヒットを記録しました。
8種類の商品に合わせた美しいパッケージとしたことで、個々の産地が視覚上においてもキャラクターとして際立ち、ユーザーにストーリーを感じさせえる仕立てとなっていました。
思わずキャラクターに当てはめたくなるほどの絶妙なデザイン展開がなしえた努力の結晶です。
Shopifyで素っ気ないECを改善!中小事業者でもストーリーブランディングを実践
自社ECを展開しているけれど、いまいち売上が伸びない…とお悩みの方は多いのではないでしょうか?
とりわけ、Amazonや他のECと併せてマルチチャネルで展開している事業者におススメなのが、自社ECにストーリーブランディングを取り込むことです。
ユーザーの立場から考えると、基本的に自社ECが利便性でAmazonを超えることはありません。
ここで重要なのは、何故ユーザーが自社ECに訪れているか?ではなく、わざわざ自社ECに来るユーザーはロイヤリティが高いという事実です。
つまり、このユーザーはファンベースマーケティングの考え方に則れば、全体の2割の母数ながらも売上の8割を担うヘビーユーザー、すなわちファンに当たるということです。
そして、ブランドを育成する上では他の8割のライトユーザーよりも、この2割のロイヤリティの高いユーザーを育成することが重要なのです。
ブランドを表現できるECプラットフォームshopify
とはいえ、なかなか自社でECを構築するのは難しいですよね。
そこで、おススメのECシステムがShopifyです。
今回はshopifyの事例のうち、特にストーリーが伝わってくる企業をご紹介します。
FRIENDLY HEALTH CLUB
出汁というと和風に傾きがちですが、サプリ要素を全面に押し出したデザインが特徴です。
ケミカルで目をひくアイキャッチの直下に、ブランドメッセージを持ってくることで、一見連想できない出汁×サプリの組み合わせにブランドの想いを感じ取れます。
VIBTEX
コロナコロナ禍にうまれた、ウイルスを弾く素材をつかったアパレルブランド。
海外の薬品をイメージさせる原色ブルーとゴシックの組み合わせは、ストリートブランドも意識させられます。
この事例も優れたアイキャッチの直下にマーケティングメッセージがあり、優れたECデザインの一つのテクニックとして、アイキャッチの下にマーケティングメッセージを置くということは再現できるかもしれませんね。
キーワードは【ナラティブ】、最新のブランドPR手法とは?
ここまでストーリーを中心に、各社各製品の事例やPRマーケティングの手法をご紹介してきました。
しかし、実は最新のPRにおいては、ストーリーではなく、【ナラティブ】がキーワードになっています。
ナラティブは直訳すると「物語」や「話術」を意味する言葉。
そのため、どうしても日本語に直すと、ストーリーとの違いが分かりにくくなってしまいます。
そこで、ここではPRストラテジストである本田哲也氏が定義した「物語的な共創構造」をご紹介します。
本田哲也氏が提唱する「物語的な共創構造」
本田氏によると、企業のPR活動においては、ストーリーとナラティブの違いを分けて捉える事が重要とのこと。
これまでのストーリーブランディングの文脈では、企業主体の物語が語られる事が多く、その舞台になっているのは、あくまでもその企業や製品がターゲットとしている市場や業界の中のみでの話でした。
しかし、持続可能な社会、すなわちSDGsがもとめられる世の中になったことで、企業の責任はこれまでにないほど広く捉えられるようになっています。
その結果、企業主体の物語の結果として生まれた商品ではなく、消費者も含めたステークホルダー、すなわち社会全体の物語に置き換える必要があるのです。
幸楽苑に学ぶ企業としての在り方。
日本にいると中々感じることはできませんが、欧米におけるブランディングの中心は徐々にSDGsへと移ろうとしています。
無論、そこには経済的な目論見があるのは事実ですが、その背景に巨大な権力を握るようになった多国籍企業に対し、資本主義の限界が叫ばれる中で社会や未来に対する誠実な態度が求められているという側面があります。
幸楽苑のこの取り組みが話題になったのも、皆が心の奥底で疑問や違和感を感じていたからではないでしょうか。
社会において、消費者と労働者は一体であり不可分なもの。この感覚は今後より一層一般的になるでしょう。
その証拠に「SHIBUYA109 lab.」による調査では、Z世代の考える企業が取り組むべき課題の第一位は働きがいと経済成長の両立でした。
もはや時間の問題でしかありません。
スティーブジョブズは以下のように語っています。
「今まで見た中で、最も優れたマーケティングを行っているのは、ナイキでした。(中略)彼らは広告の中で、製品について一切語りません。決してエアソールがリーボックより優れているなんて言いません。ナイキは広告で何をしているのか?それは、偉大な選手と偉大な競技に対し、これ以上ない敬意を表現しているのです。それこそが、彼らが何者であるか、彼らは何の為に存在するかを示しているのです。」
ストーリーブランディングだけではなく、ブランディングの本質がうかがえるメッセージだとは思いませんか?