情報発信や顧客とのコミュニケーションの場として、いまやSNSは欠かせないプロモーションツールになっています。
しかし、従業員や外部の人の心無い書き込みや不適切な投稿がまたたく間に広がり、「炎上」する事例も後を絶ちません。
悪名が立ってしまうような炎上は、企業や店舗のイメージを大きく損ね、それが経営に影響することも珍しくありません。
そのような時のための、「ネット炎上保険」が次々と発売されています。
ネット炎上発生件数は右肩上がり
SNSの普及にともなって、ネットでの「炎上」の件数は右肩上がりです(図1)。
図1 国内でのネット炎上件数の推移
(出所:「令和元年度 情報通信白書」総務省)
さらに別の調査では、2021年のネット炎上件数は前の年に比べて25%増加したという結果も出ています*1。
この調査によると最も多い炎上理由は、
・「非常識な発言、行動、デリカシーのない内容、発言、行為」が全体の37.1%
・「特定の層を不快にさせるような内容、発言、行為」が全体の35.4%
となっています。
企業が発信内容に気を使わなければならないのは当然ですが、「特定の層」ということに関して言えば、何が適切で何が不適切なのかがわかりにくくなっています。ひとつのクリエイティブをどう受け止めるかはその人次第という部分もあります。
また、「バイトテロ」のような投稿も珍しくはありません。
思わぬところから炎上が始まるということもあるでしょう。
ネット炎上がもたらすもの
国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口氏は、ネット炎上がもたらす影響をこのように分析しています*2。
1)炎上のミクロ的影響 =
・炎上対象者の心理的負担増加、社会生活への影響。進学、結婚の取り消し等。
・企業であれば株価の下落、企業イメージの低下。バイト店員が炎上して倒産した企業も。マスメディアが取り上げると 株価に負の影響(Adachi & Takeda, 2016) 。
2) 炎上のマクロ的影響=
・炎上から逃れる方法は沈黙。情報発信の停止をまねく。
・炎上は「大衆による表現の規制」という新しい現象。
・かつ、その規制は過剰なものとなりつつある。
「ネット炎上保険」は何を補償してくれる?
このような背景を受けて誕生したのが「ネット炎上保険」です。
国内では、損保ジャパン日本興亜がはじめて「ネット炎上対応費用保険」を2017年に発売しています*3。
文字通り「炎上対策費用」を補償するというものですが、具体的な内容は以下のようになっています。
図2 損保ジャパン日光興亜の補償内容
(出所:「【国内初】企業向け『ネット炎上対応費用保険』の販売開始 」p1 SOMPOホールディングス)
上記の補償内容を見ると、逆に、炎上した場合に取らなければならない対応の多さがわかります。
なお、損保ジャパン日光興亜の場合は、このような事例を補償対象としています(図2)。
図3 損保ジャパン日光興亜が対象とする事例
(出所:「【国内初】企業向け『ネット炎上対応費用保険』の販売開始 」p2 SOMPOホールディングス)
また、GMOインターネットグループは三井住友海上と共同で、CM動画がSNSで炎上し広告主に対する誹謗中傷などのツイートが広がった場合、その対策に必要な費用を最大500万円補償するプランを発表しています*4。法律相談費用や謝罪広告費用などが補償の対象に含まれます。
ブランド毀損の値段は測れない
一方で、こうした保険にも限度があるのは事実です。
対応にかかる費用は補償されますが、炎上によって失われたブランド価値の毀損は、金額化するのが難しく、必ずしもカバーされるわけではないという点です。
炎上発生直後は素早い適切な対応が必要であり、そこに大きな初期費用がかかることは想定できても、その後どのような形で消費者のブランドへの意識が変わり、イメージが回復するのか、逆にどの程度のマイナスになるかは、因果関係がつかみにくいものです。
また、保険の利用だけでなく、事業者自身がネット炎上の性質について知る必要があります。
SOMPOリスクケアマネジメントは、炎上の種類ごとの対応を以下のように紹介しています(図4)。
図4 炎上の種類による対応
(出所:「ネット炎上の脅威と、その対応のために!」p12 農林水産省資料)
焦る前に、「なぜ」炎上しているのかの「芯」を見極める必要があるというものです。
そして、ネット上での炎上に対しては、オンラインでのネットでの対応、オフラインでのメディアでの対応の2種類が求められます。その場合にどちらを優先するのかといったことも、事前に考えておく必要があるでしょう。そのためには、保険で費用が補償されるコンサルタントの利用も有効ではあります。
情報開示請求についても知ろう
さて、ツイッターの場合、投稿は匿名ですが、悪質な誹謗中傷にあった場合、投稿者の情報を開示請求できるというシステムもあります。
投稿者を特定し、損害賠償請求や告訴を検討することも可能です。
法律的には、以下のようなことが考えられます。
・投稿者には名誉毀損あるいは侮辱罪で告訴する
・損害賠償請求
ただ、これらは書き込まれた内容が公益を図る目的であったと認められたときや、公務員や公職選挙の候補者に関する事実に係る場合には、書き込まれた事柄が真実であったときは、名誉毀損の罪にはなりません。
こうした法的な対応については、「法テラス」で無料相談を受け付けていますので、事実無根の炎上が起きた場合は利用を検討するのも良いでしょう。
*1「2021年のネット炎上件数は20年比25%増、企業はどう向き合う?」日経クロストレンド
*2「統計分析が明らかにする炎上の実態/対策とネットメディア活用方法」p18 農林水産省資料
*3「【国内初】企業向け『ネット炎上対応費用保険』の販売開始 」p1 SOMPOホールディングス
*4「CM動画のSNS炎上に最大限の対策を。GMOプレイアドが提供する特許取得済みCM動画検証ツール「PlayAds byGMO」が『炎上保険オプション』提供開始」PR TIMES
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。