商品選びに使われているSNSはどれ?
SNSによるマーケティングは今や一般的なものになり、多くの企業が自社アカウントを持ち、さまざまな情報を発信しています。
しかし、ひとくちにSNSと言っても、Instagram、Twitter、動画配信サービス、また近年ではTikTokが台頭するなどSNSの種類も豊富になりつつあります。
まず、Z世代がこれらのSNSと従来の広告をどう使い分けているか見ていきましょう。
「SHIBUYA109」を運営するSHIBUYA109エンタテインメントが、Z世代のSNSを通じた消費傾向についてアンケート調査を実施した結果を公表しています。
まず、数あるSNSをどのように使い分けているかという質問では、このような結果が出ています(図1)。
それぞれのSNSを、目的別に使い分けていることがわかります。
Twitterが「興味のあること」「トレンド」という消費につながりやすい目的で利用されているのに対し、Instagramはどちらかというと「友人どうしのコミュニケーションツール」という色合いが濃くなっているのです。
また、新しいブランドを知るきっかけになるSNSはどれかという質問では、回答は下のようになっています(図2)。
SNSが「通販サイト」「お店」を大きく上回っています。
またSNSの中でも、「Instagram」「Twitter」が新しいブランド認知に大きく関与していることがわかるほか、Instagramについては男女で大きな違いが生まれています。
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Z世代のSNS使いに見える「ZMOT」
そして、このアンケート調査の中で興味深いのが、「新しく知ったブランドや商品についてどのように情報収集するか」という質問です。回答は下のようになっています(図3)。
SNSでブランドを認知し、そこから検索エンジン、Twitterで検索して情報を収集するという行動様式は、従来とは大きく違う広告手段を企業に求めています。
この行動は、Googleが提唱している「ZMOT」そのものなのです。
「ZMOT」とは、Googleが2011年に提唱した概念で、「Zero Moment of Truth」の略です。
ネット時代やSNSの時代では、顧客がどのような形で商品に出会うか(=First Moment)の前の段階に注目しなければならないというものです。
Googleは、デジタルカメラを購買する父親の行動を例に、SNS以前の行動様式と現代の行動様式の違いをこのように説明しています。
まず、ネットやSNS「以前」の購入までの心理的な動きはこのようなものです(図4)。
何かに「刺激(Stimulus)」され、商品を欲しいと思って店に出かける、という形です。
例えばこのような感情や行動です*1。
(1)ある父親がテレビでサッカーを観戦中にデジタルカメラについてのCMを目にして「このカメラは良さそうだな」と思う。
(2)そこで彼は、いつも行く家電量販店に行く。すると、彼がCMで目にしたカメラが多く展示されている。梱包の見た目も良い。若い店員は彼の質問になんでも答えてくれる。そして彼はそのカメラを買う。
(3)彼はカメラを家に持ち帰り、CMで紹介された通りに子供の写真をたくさんカメラに収める。
しかし、ネットやSNS時代には、このような「Zero Moment」が存在するというのがGoogleの指摘です(図5)。
例えば先に挙げた父親の行動は、このように変化します。
(1)父親はデジタルカメラのCMを目にして、興味を持つ。
(2)そして、パソコンを開き、SNSや動画共有サイトでそのカメラについて調べる。口コミやデモ映像、価格について調べ、検討する(ZMOT)。
(3)その上で、買うと決めたら量販店に足を運ぶ(今なら、ECサイトを訪問する=First Moment)。
という流れなのです。CMを見て直接店舗を訪れるわけではなく、そこに「ZMOT」としてのネット上での情報収集という段階があるのです。
そして、先ほどの図3、Z世代のブランド認知後の情報収集方法を見ると、Z世代にとっての「ZMOT」にTwitterなどのSNSが大きく関与していることがわかります。
いきなり通販サイトを見る、という行動は少ないのです。
「ネットとリアルが融合」のSNSネイティブの特徴
電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは、Z世代のSNSへの接し方についてこのように話しています。
「一緒にいることとネットでつながること、どちらも共通の思い出が作れて、お互いを知ることができるというのがZ世代の感覚です。道具的、非同期的だったネットのあり方が変わりつつあります」*2
「SNSでの評価を鵜呑みにして良いのか」。そう感じる世代の人も多いことでしょう。
しかし、SNSネイティブにとっては、お互いを知ることのできるツール上に存在する情報ですから、リアルでの口コミと違うものだ、という感覚はほとんどありません。
そして、例えばTwitterの場合、ユーザーがお気に入りやリツイートという行動を取ることによって情報はどんどん拡散されていきます。このような形でSNSで発信されているものに対し、なんらかのリアクションを瞬間的に取るのもSNSネイティブならではの行動です。
「ZMOT」としてのSNS戦略の必要性
ここまでZ世代の行動について見てきた中で、SNS戦略が企業にとっていかに重要かがわかることでしょう。
それも、漫然と発信するのではなく、「トレンド」に沿った発信が必要だと言うことです。
従来のマーケターは、自社製品がいかに優れているかに重点を置く広告戦略を取ることも多くありました。
しかし現在は、相手の関心ごとを知り、自社製品が相手の生活の中でどんな役割を果たせるかを強調していかなければなりません。
また、SNS上でつながることとリアルで繋がることに差異を感じない、というZ世代の特性を考えれば、企業は「友達のような存在」になる努力をしなければならないとも言えるでしょう。
加えて、近年明らかになっている「ミラーニューロン」の存在についても、押さえておきたいところです。
「物まね神経」とも呼ばれるものですが、皆さんもその働きを経験したことがあるのではないでしょうか*3。
スポーツ観戦中、躍動する選手の動きに合わせて思わず自分も動いている気分になった、ドラマに見入っていてふと気が付くと、主人公とそっくりのポーズをしていた、というものです。
こうしたミラーニューロンによる行動は、自分に似た属性を持つ相手の姿を見て起こされるものと考えられています*4。
しかし、ミラーニューロンは、ただの身体的な動きだけでなく「心を動かす」ものなのかもしれません。
ミラーニューロンのそうした側面を、SNSの世界が見せてくれている可能性があります。
関連記事:Z世代向けマーケティング戦略とは?消費行動や成功事例を解説
注釈
*1「WINNING THE ZERO MOMENT OF TRUTH」Google
https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/673/2011-winning-zmot-ebook_research-studies.pdf p16
*2「Z世代に広がる『察する』文化 SNS『共有』感覚に大人世代とギャップが生まれる理由」AERA
https://dot.asahi.com/aera/2022062200051.html?page=1
*3「脳の中にある『物まね神経』のすごい働き」日経ヘルスナビ
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK29017_Z20C12A4000000/
*4「脳の中にある『物まね神経』のすごい働き」日経ヘルスナビ
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK29017_Z20C12A4000000/?page=3
清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。