SNS時代の消費者行動モデル「SIPS」とは?企画に活かすヒント
SIPSとは、SNSマーケティングにおける消費者行動モデルのひとつです。
Sympathize(共感する)→Identify(確認する)→Participate(参加する)→Share&Spread(共有・拡散する)の頭文字をとって作られました。 |
SIPSは、SNSマーケティングの企画アイデアを生み出すとき、便利なツールです。
しかしながら、言葉として知ってはいても実務で使いこなしている方は、少ないのではないでしょうか。
本記事では、SIPSの基礎知識を解説したうえで、企画に活かす具体的なヒントをお届けします。
有名な消費者行動モデルと2011年生まれのSIPS
まず、そもそも「消費者行動モデルって何?」という基礎知識から紐解いていきましょう。SIPS以外の理論も知っていたほうが、使いこなしやすくなるためです。
消費者行動論における仮説や理論
消費者行動モデルとは、元をただせば「消費者行動論」における行動プロセスの仮説や理論を指す言葉です。
「消費者行動」には不思議が詰まっています。なぜその商品を買ったのか?なぜ買うのをやめたのか?なぜそのブランドが好きなのか? etc.
そういった消費者行動の謎を研究する学問が「消費者行動論」です。
消費者行動論では、心理学、認知科学、社会学など、多角的な観点から消費者行動にアプローチします。
消費者は、知覚、学習、記憶、意思決定などを経て購買行動に至りますが、どんなプロセスになっているのか、多くの研究者が理論を発表しています。
それらの理論を指して「消費者行動モデル」と呼んでいます。
マーケティングで使われる消費者行動モデル
消費者行動論とマーケティングは親和性が高く、マーケティングの実務でも、さまざまな消費者行動モデルが開発され活用されています。
以下に有名な3つのモデルをまとめました。
プロセス | |
---|---|
AIDA (アイダ) |
(1)Attention:商品を認識する (2)Interest:興味を持つ (3)Desire:購買意欲がわく (4)Action:購入する |
AIDMA (アイドマ) |
(1)Attention:商品を認識する (2)Interest:興味を持つ (3)Desire:購買意欲がわく (4)Memory:商品を覚える (5)Action:購入する |
AISAS
(アイサス) |
(1)Attention:商品を認識する |
上記のうち、最も新しいのはAISAS(アイサス)です。
インターネットの普及にともない、自ら情報を検索し発信する消費者(アクティブコンシューマー)に対応したモデルとして、2004年、電通によって提唱されました。*1
2011年生まれの「SIPS」
さて、ここまでお話した流れを汲みつつ、2011年に登場したのが本記事の主題である「SIPS」です。
提唱者の電通は「来たるべきソーシャルメディア時代の新しい生活者消費行動モデル概念」として、以下の図を公開しました。
注釈
SIPSはAISASに取って代わる後継ではなく、ソーシャルメディアでのコミュニケーションに特化したモデルとして、定義されています。
その中身と活用ヒントについては、次章で詳しく見ていくことにしましょう。
「SIPS」の4つのステップと活用ヒント
ここからはSIPSの4つのステップを、筆者の解釈を加えながらご紹介します。
- 第1のステップ:思いがないと始まらない「Sympathize」
- 第2のステップ:うのみにはしない「Identify」
- 第3のステップ:わたしもかかわる「Participate」
- 第4のステップ:経験は分かち合うもの「Share & Spread」
近年のSNS動向も踏まえ、マーケティング企画のヒントとして、参考にしていただければと思います。
第1のステップ:思いがないと始まらない「Sympathize」
1つめのステップは「Sympathize(共感する)」です。
“思い”がないと、何も始まりません。ユーザーの心が大きく動いた分、大きなバズが生まれます。
▼ 企画のヒント
作り手の心が動いていると受け手の心も動く
注意したいのは、共感が重要と叫ばれすぎて、以下のような思考回路になってしまうことです。
「ユーザーの心情や悩みを言い当てるキャッチコピーは?」
「ユーザーの心に寄り添ったコンテンツを作らなければ!」
共感させようと仕掛けると、ユーザーは冷めてしまいます。無理やり感動させようとする映画は、感動する前にしらけてしまうのと同じです。
では共感はどう作ればよいのか?といえば、筆者は「作り手の心が動いていること」だと考えています。
作り手の熱意、優しさ、伝えたい思い、本気、思いやりなど、人間は「誰かの心」に共感するものなのです。
第2のステップ:うのみにはしない「Identify」
2つめのステップは「Identify(確認する)」です。
ユーザーは、どんなによい情報も、うのみにはしません。自らリサーチして、真の姿を確かめようとします。
▼ 企画のヒント
検索されるデータ・情報量を十分に準備する
提供するコンテンツや商品・サービスに偽りがなく、価値があることは大前提となります。偽物、うそ、不誠実な発信は見抜かれるためです。
その前提を十分にクリアしても成果が出にくいケースがあり、それは「情報不足」のせいかもしれません。
ユーザーが“Identify”しようとインターネット上を検索しても、納得できるだけの情報にアクセスできなければ、評価判定は「納得できない」となります。
不誠実な理由で納得を得られないブランドと、同じステージになってしまうのです。
ユーザーがインターネット上を検索したとき、十分な量の情報にヒットするよう、意図してデータを整えておきましょう。
- 具体的な場所は、以下が挙げられます。SNS内の検索(投稿、ハッシュタグ)
- 検索エンジン
- Amazon・楽天・自社ECなどの購入者レビュー
- ブランドサイトの商品詳細ページ
- その他
第3のステップ:わたしもかかわる「Participate」
3つめのステップは「Participate(参加する)」です。
共感を超え、「わたしもかかわりたい」というユーザーの気持ちを引き出せるかどうか。それがSNSマーケティングの重要なカギを握っています。
▼ 企画のヒント
思わずリミックスしたくなるコンテンツ
最近の注目として「リミックス」があります。
※以下はTikTokおよびInstagramのリミックスに関する説明ページです。
- リミックス | TikTok ヘルプセンター
- Instagram、好きなリール動画とコラボできる新機能「リミックス」を追加
リミックスは、ほかのユーザーの動画と自分の動画をコラボさせる機能です。たとえば左半分にほかのユーザー、右半分に自分の動画を配置して、2分割画面で同時に再生できます。
ほかのユーザーと並んで同じダンスを踊ったり、同じ料理を作ったり、さまざまな楽しみ方があります。
TikTokやInstagramのリミックス機能という狭義だけでなく、もう少し広い概念としても、「リミックスしたくなる」をポイントとして企画を考えてみます。
第4のステップ:経験は分かち合うもの「Share & Spread」
4つめのステップは「Share & Spread(共有・拡散する)」です。
現代の私たちにとって、自分の経験を不特定多数の他者と分かち合うことは、ごく身近となりました。
そのモチベーションのひとつとして挙げられるのが「他者への貢献」です。誰かの役に立ちたいから、情報共有するのです。
▼ 企画のヒント
ブランドから感謝の気持ちを伝える
そんなShare & Spreadのモチベーションをブーストする企画としてご提案したいのが、
「ブランドからも、感謝の気持ちを伝える」
という視点です。
ブランド公式アカウントからユーザーの投稿に「いいね」を押す、リツイートする、お礼のメッセージを送るといった対応のほか、ロイヤルティプログラムに組み込む方法もあります。
ロイヤルティプログラムとは、会員ランク制度やポイントシステムなど、既存顧客のロイヤルティ向上を目的とする施策です。
たとえば、近年の米国におけるロイヤルティプログラムでは、SNSでのエンゲージメントに対してインセンティブ(報酬、特典)を付与するケースが増えています。
「共有・拡散する行動を、ユーザーにとって心地よい体験にするためには?」
という問いを、考えてみてください。
さいごに
本記事では「SIPS」をテーマにお届けしました。
本文中の「第1のステップ:Sympathize」で触れたこととも通じるのですが、マーケティングのノウハウが洗練されるに従って、「心が不在」の施策が増えているように感じます。
気がかりであると同時に、チャンスであるとも思います。「心あるブランドが評価される機会が増えた」といえるからです。
昔なら「そんなキレイごとではビジネスにならないよ」と一蹴されていた、温かくて純粋な“思い”が、誰かの心を動かすかもしれません。
ユーザーと心でつながるSNSマーケティングに、取り組んでいただければと思います。
注釈
*1 出所)株式会社電通「“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。 | ウェブ電通報」
*2 出所)株式会社電通「ソーシャルメディアに対応した消費行動モデル概念『SIPS』を発表」
※上記以外の本文中画像は筆者作成
著者名:三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。